2020/03/02 22:08


巣箱から蜜を採る行為を採蜜という。ベストな採蜜時期は何時か、春夏秋? 飼育者の間でも意見が異なる質問だ。
ただし、養蜂家の洋蜜の採蜜時期に異論を唱える人はない。洋蜂のレンゲ蜜はレンゲの花が咲き終わった時が採蜜時で、アカシア蜜はアカシアの花が咲き終わった時に採る。タイミングを逃したら純粋な単花蜜は生産されない。
 ところが、集蜜力の劣る日本みつばち(和蜜)はふつう1年に一度の量になる。この「一年に一回」が洋蜜がまねできない日本みつばちの最大の差別化になる。和蜜は巣の中で夏を越す。そして数か月の間巣の中で貯蜜されている。この間が重要だ。夏を越すとは、つまり35度前後の適温で酵素が熟成される期間になる。さらに、その酵素は固有の花と固有の蜂のそれぞれが持つ酵素が混入するから洋蜜とは全く似て非なる蜜に仕上がる。

僕は、日本みつばちの蜂蜜の価値は生産量が少ない故の希少価値という意見を否定しないけど、僕は僕の持論をもつている。和蜜と洋蜜の違い、それは和蜜の価値だ。夏を越して貯蜜されている間に熟成豊かな栄養価の高い酵素蜜に変化する和蜜を希少価値だけで論じてもらいたくない。だから生命線というべき最大のこの価値を損なうような加熱は断じて行ってはならない。

本題のベストな採蜜時期の結論は‥その答えはない。生産量の少ない和蜜は越夏と越冬の食料として貯蜜されているから蜜を採ると群は冬も夏も越せない。春は子別れのため分蜂時に沢山の蜜を腹に入れて出るから巣箱の蜜は搾るほどない。雨季から夏過ぎまでは花不足で蜂は蜜を溜めれない。秋は越冬食を残さないと冬に餓死する。つまり和蜜はベストな採蜜時期なんてないのである。

ところがどっこい。冬の蜂は産卵活動を停止しているから減る一方だ。だんだん数も少なくなり自力で巣温を保てなくなる巣箱が生まれる。つまり一巻の終わり箱だ。この巣箱を分解すると蓋をした蜜層の巣板がびっしり残っている。その蜜を計るとなんと糖度計は80度前後を指していて一年を通じて最も良質で安定した蜜が採れる時期でもあるのだ。採蜜シーズンとはいい難い冬の蜜は、実は案外にいいのである。2020.2.22

安江三岐彦